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大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)1535号 判決

被控訴人 兵庫相互銀行

理由

別紙第一目録記載の株券が控訴人長瀬順之助の、同第二目録記載の株券が控訴人長瀬光枝の各所有であつて、現に被控訴人がこれを占有すること、三木五郎が昭和二六年一月頃から昭和三一年八月頃まで被控訴人の今里支店、同月頃から昭和三二年四月頃まで同大阪支店の各支店長代理をしていたこと、同人が川見某から金六〇万円を借りうけたことについて被控訴人の長谷川専務が拝野今里支店長を通じて早急に解決するよう要望したことおよび三木五郎が右借受金を返済するにつき被控訴人の今里支店から本件株券を担保に入れて金六〇万円を借りうけたことは当事者間に争がない。

被控訴人は、本件株券は控訴人等が三木五郎を代理人として同人の被控訴人に対する右金六〇万円の債務の担保として被控訴人に差入れたものであり、右債務は未だ弁済されていないと主張するので案ずるに、証拠を総合すると、三木五郎の被控訴人よりの前記借受金は被控訴人の取引先なる飯沼寛次の名義を使用し昭和三二年一月二〇日頃無担保にて貸出手続を経たものであるが、被控訴人の本店監査までに担保差入の必要に迫られたので、三木はその頃自己の部下で控訴人長瀬光枝の夫である稲本茂夫に対し「自分が今里支店にいた当時無担保で六〇万円を貸付けたことがあるが、近く本店の監査があり発覚すると困るので、その監査の間だけ担保にする株券を貸してほしい」旨依頼したので、稲本茂夫はその頃控訴人光枝およびその父なる控訴人順之助にその旨申入れ、控訴人等もこれを了承して三木五郎に本件株券を一時貸与したところ、三木五郎はこれを被控訴人に対し前記飯沼寛次名義の自己の債務の担保として差入れたことおよび本件株券には控訴人等の譲渡証書が添付されていたことを認めることができる。右事実によると、控訴人等は三木五郎に対し本件株券を被控訴人の本店監査のための「みせ担保」として同支店に差入れることを許容したものであり、かかる場合の「みせ担保」とは控訴人等は三木五郎を代理人として被控訴人に対し、被控訴人に対する債務者の債務の担保として本件株券を差入れる権限を授与し、同人は本店監査の終了次第弁済または代り担保を差入れる等自己の責任において本件株券を被控訴人により取戻し、これを控訴人等に返還することを控訴人等に約したものというべきである。

控訴人等は、本件株券は被控訴人の代理人たる三木五郎に対し一時使用のため貸与したものであると主張する。三木五郎が本件株券を控訴人等から受領した当時被控訴人の大阪支店長代理であつたことは当事者間に争ないが、三木五郎が控訴人等から本件株券を借りうけた事情は前記認定のごとく同人の被控訴人今里支店長代理としてなした無担保貸出手続が被控訴人に発覚することをおそれ、これを糊塗するため控訴人等よりこれを一時借用したものであつて、三木五郎のかかる借入行為は特段の事情のない限り同人個人の行為とみるのが相当であり、被控訴人の代理人としての行為とみるべきではない。けだし、被控訴人が被控訴人自身の監査を無意味ならしめるような行為を三木五郎に委任する筈がないし、また支店長代理としてもかかる権限を当然に付与されているとは到底考えられないからである。他に被控訴人から三木五郎に対し特に右株券借入行為につき代理権を授与したと認める証拠もないから、控訴人等の右主張は採用しない。

すると、三木五郎が本件株券を被控訴人に対する飯沼寛次名義の自己の債務の担保に差入れたことは控訴人等の意思にもとずくものであつて有効となさざるをえず、被控訴人は右債務の担保として本件株券を占有しているものであつて、右債務の完済せられざる限り、本件株券を控訴人等に返還する義務なきものというべく、右債務の完済せられたことの主張立証のない本件においては、本件株券の引渡を求める控訴人等の本訴請求は失当として棄却すべく、控訴人等は原審における損害賠償請求の訴を当審において所有権にもとずく株券引渡の請求の訴に変更し、被控訴人はこれに対しなんら異議を述べなかつたのであるから、右損害賠償請求の訴はその取下につき同意ありたるものと認め、右訴については判断をしない。

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